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札幌高等裁判所 昭和61年(ラ)4号 決定

抗告人

株式会社オリエントファイナンス

右代表者代表取締役

阿部喜夫

右代理人弁護士

横幕正次郎

相手方

破産者鎌田匡破産管財人

松浦護

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一抗告の趣旨

1  原決定を取消す。

2  相手方は抗告人に対し、別紙物件目録記載の自動車を仮に引渡せ。

二抗告の理由

別紙抗告の理由に記載のとおりである。

三当裁判所の判断

1  抗告人が本件仮処分を求める理由は、次のとおりである。

(一)  抗告人は、昭和六〇年四月一〇日、申請外鎌田匡(以下「鎌田」という。)が申請外帯広三菱自動車販売株式会社(以下「三菱自動車」という。)から別紙物件目録記載の自動車(以下「本件自動車」という。)を購入するにあたり、その代金について鎌田と立替委託契約(以下「本件立替委託契約」という。)を締結し、右契約に基づいて同月一八日に三菱自動車に右代金を支払つた(以下これを「本件弁済」という。)。

(二)  鎌田は同年八月三〇日に破産宣告を受け、相手方がその破産管財人となつた。

(三)  抗告人は左の(1)ないし(2)の理由に基づき、本件自動車の所有権者であつて、破産法上の取戻権を有している。

(1) 三菱自動車は鎌田に対する本件自動車の売買においてその所有権を留保(以下これを「本件所有権留保」といい、右留保された所有権を「本件留保所有権」という。)していたが、抗告人は前記のとおりその代金を弁済したので、法定代位により、右所有権を取得した(対抗要件は不要である。)。

(2) 仮に、本件自動車の所有権が鎌田に移転したとしても、鎌田は抗告人に対する前記代金及びその手数料債務についての譲渡担保(以下「本件譲渡担保」という。)として更に抗告人に右所有権を移転した(占有改定により対抗要件は具備している。)が、前記鎌田の破産により抗告人は確定的に右所有権を取得した。

(四)  しかるに相手方は本件自動車の任意の引渡に応ぜず、本案の勝訴判決までにはその価値は著しく減少する。

2  抗告人は、右のとおり、本件仮処分申請の被保全権利として、主位的に本件弁済に基づく法定代位によつて三菱自動車から取得した本件留保所有権、予備的に本件譲渡担保と鎌田の債務不履行に基づき取得した所有権を主張している。

しかしながら、抗告人の主張にかかる前記事実関係を前提とすれば、本件所有権留保ないし本件譲渡担保の実質的な目的は、あくまでも本件立替委託契約とこれによる本件弁済に基づく抗告人の求償債権を担保することにあり、いずれにしても本件自動車の所有権の抗告人に対する移転は確定的なものではないと解される。そうすると、抗告人としては、本件留保所有権ないし本件譲渡担保権に基づく別除権者として権利行使をなすべきであつて、本件自動車に対する所有権を主張してその引渡を求める取戻権は有しないものというべきである(最判昭和四一年四月二八日民集二〇巻四号九〇〇頁参照)。

3  したがつて、抗告人の本件自動車引渡仮処分申請は、被保全権利の存在についての疎明がなく、疎明に代えて保証を立てさせるのも相当ではないから、その余の点について判断するまでもなく、主張自体失当として、これを却下すべきである。

四結 論

よつて、本件仮処分申請を却下した原決定は結局相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官舟本信光 裁判官吉本俊雄 裁判官井上繁規)

抗告の理由

一 被保全権利の存在について

原審は、右被保全権利を否定するものとして、第一に本件立替委託契約書(疎甲一号証)の裏面条項3に契約成立と同時に鎌田に移転するとしている点を強調し、第二に抗告人が立替払いしても代位の要件を充足しないのではないかとしている。

二 右第一の点につき、本件立替委託契約書には契約成立と同時に所有権は鎌田に移転すると記載してあるが、真実の契約内容は、本件自動車の所有権を鎌田が代金完済するまで三菱自動車が留保するというものであつた。右留保された所有権は抗告人が立替払いしたことにより当然抗告人に移転し、割賦金が完済された時点で抗告人から鎌田に移転登録されるものである。

なお譲渡担保(譲渡担保を予備的主張とする)として、本件自動車の所有権は本件立替委託契約成立により、抗告人が三菱自動車に立替払いしたことにより抗告人が取得した所有権を鎌田に移転するが、鎌田は前記債務の担保として抗告人にその所有権を譲渡する。鎌田は本件自動車を無償で使用するが、破産等により期限の利益を失い、債務不履行の場合は直ちに抗告人にこれを引渡し、抗告人は確定的に所有権を取得するが、約旨どおり完済した場合は鎌田に対し、所有権移転登録手続をすることの約旨であつた。

右いずれの場合でも鎌田が完済するまでは抗告人に所有権が帰属するものであるところ、鎌田には本件契約後は所有権者ではなく、使用者として使用させていたこと(疎甲四、六号証)、完済後は、鎌田に所有権移転登録するが、それまでは抗告人が所有権者としてその権利を留保すること(疎甲二、三号証)である。以上の如き契約内容であつたからこそそのとおり鎌田が使用者として登録されていた(疎甲四号証)のであり、所有者として登録されてはいないのである。原審の言う如く、本件立替委託契約書の「鎌田に所有権が移転されると記載してある」点のみを強調するのであれば、現在迄に鎌田は使用者ではなく所有者として登録されるべきであるし、鎌田もそのように主張していたはずである。しかしそのような事実は全くない。

なお、原審は右疎甲二乃至四号証の書類を評して「抵当権設定の登録の便宜のため」などとしている。何を言わんとしているか不可解な判示であるが、抵当権を設定するのであれば前記の如く鎌田が使用者であることの登録手続はしないのである。鎌田を所有者として移転登録しなければ抵当権設定手続は出来ないのである。然るにこのような書類が抗告人に存するのに「直ちに抗告人が本件自動車の所有権者とも評し得ない」と原審は言うが、これ以外にどのような書類が必要だと言うのか。これらの書類だけで所有権移転登録には必要かつ充分である。

三 第二の点の対抗要件について

ところで原審は、本件で代位弁済しても、法定代位の要件を充足したとは言えないのではないかと言う。抗告人は鎌田の依頼によつて本件自動車代金を三菱自動車に代位弁済した者であつて、正にその弁済につき正当な利益を有することは勿論であつて、抗告人はその弁済によつて三菱自動車に法定代位することは当然である。

ところで代位は譲渡とは異なり、弁済によつて消滅すべきはずの債権、担保、所有権(特約に基づく留保所有権)を法律上移転することであり、法定代位の場合には対抗要件を具備しなくとも代位者は当然第三者に対抗できるものである。

四 原審は、契約書の「契約成立と同時に移転する」という形式面のみ強調するあまり、本件の真実の契約内容を証する数多くの書証の評価を誤つたもので、取消されるべきものである。

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